●提言1
震災予防を防災の原則に
予防原則に立ちかえり、震災対策条例を改め、震災予防対策条例を制定します。
石原知事が改悪した自己責任原則による自助の考えを改め、地震による災害の多くは人災との立場から、被害を未然に防止し、最小限にくいとめる予防の原則に立って震災対策を徹底的に見直し、新たに確立します。
○総合的な災害対策を行う防災局(仮称)を設置します。
○東京都の防災会議・地震部会を公開し、被害想定の見直しは、都民参加で行います。
○都立防災研究所をつくり、常時調査・研究をおこない、都民と都政に反映させます。
○石原都政によって削減された防災予算を抜本的に増額させます。
防災対策の基本は予防です。この点では、阪神淡路大震災後に開かれた国連世界防災会議が「予防の文化の醸成」を掲げたことを重く受け止める必要があります。
そして、革新都政が「東京都震災予防条例」を制定し、「地震は自然現象であるが、地震による被害の多くは人災である」「従って、人間の英知と技術と努力により、地震による災害を未然に防止し、被害を最小限にくい止めることができる」(前分)と定め、全力を尽くしたことに立ち返ることが必要です。
その成果の第一は、白髭東地区の防災拠点(墨田区)に代表される木造密集地域の解消です。これは、都の直接の施行で、都営住宅などの公的住宅の建設を柱に、弱小権利者の居住を保障するまちづくりをすすめた画期的なものです。
しかし、その後、東京都は木密対策事業を、住民追い出し型の民間再開発型に転換、それに失敗すると区市へ事業を押し付け、都の仕事を不燃化事業に特化させるなど施策を後退させ、住宅の耐震化についても自助=自己責任で行うべきと背を向けてきました。
石原都政が財界戦略にそって「震災予防条例」を改悪したことの責任は重大です。改悪した条例をもとに戻し、予防原則を東京都の防災の柱の中心に据え直すことが強く求められています。
東日本大地震による福島第一原発破壊は、日本と世界の大事故となりました。首都圏近郊には東海第二原発や浜岡原発があり、ひとたび巨大地震と津波が首都圏を襲えば、放射能汚染の拡散につながりかねず、都民のいのちも重大な危機にさらされます。東京都が原発ゼロへ向けて計画的に取り組み、再生可能な自然エネルギーへの転換を率先してすすめます。
東京都震災予防条例・前文の新旧対照(2000年12月21日改定)
震災予防条例(革新都政) |
震災対策条例(石原都政) |
東京は都市の安全性を欠いたまま都市形成がおこなわれたため、都の都市構造は地震災害等に対するもろさを内包している。東京を地震による災害から守るためには、必要な措置を急がなければならない。いうまでもなく、地震は自然現象であるが、地震による災害の多くは人災であるといえる。従って、人間の英知と技術と努力により、地震による災害を未然に防止し、被害を最小限にくい止めることができるはずである。 |
地震による被害から1人でも多くの生命及び貴重な財産を守るためには、まず第一に『自らの生命は自らが守る』という自己責任原則による自助の考え方、第二に他人を助けることとのできる都民の地域における助け合いによって『自分のまちは自分で守る』という共助の考え方、この二つの理念に立つ都民と公助の役割を果たす行政とが、それぞれの責務と役割を明らかにしたうえで、連携を図っていくことが欠かせない。 |
防災対策における自助・共助・公助の流れ
1994年 |
経済同友会 |
新しい平和国家をめざして
- 国内の仕組みの再構築を考えるにあっては、 個人で解決できることは個人で、地域で解決できることは地域コミュニティ、さらには市町村、都道府県、そして、国へと問題解決の範囲を徐々に移行させて行くという考え方を導入すべきである。これは、個の確立と公正の尊重に基づくいわゆる「サブシディアリティ(注:補完性)の原則」である。
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1996年 |
経済団体連合会 |
魅力ある日本 −創造への責任−
- 国民・企業の自立自助を基本に、これまで果たしてきた財政の役割を可能な限り市場機能に委ねることにより、民間活力を最大限活かす
- 「官から民へ」「国から地方へ」の改革理念のもとに、行政改革を推進し、透明かつ小さくて効率的な政府を目指すべきである。
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1997年 |
経済同友会 |
市場主義宣言
- 国・地方を含めた一般政府及び公的企業を合わせた公的部門全体の活動範囲を、民間主導、市場原理、自己責任、自立自助を基本として大幅に縮小するとともに、公的部門の活動にも市場原理を導入し、「小さな政府」「効率的な政府」を実現することが急務である。
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民間活力を引き出す構造改革を
- 行政組織改革については、「民でできることは全て民で」という基本姿勢を徹底し、中央・地方を含めて簡素で効率が高い「小さな政府」の実現目指す。
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1999年 |
東京都 |
石原慎太郎東京都知事当選
東京の問題を考える懇談会(1999年〜2002年)
- 樋口廣太朗(経団連副会長)
- 森 稔(経団連理事)
- 牛尾治朗(経済同友会代表幹事)
- 鳥海 巌(経済同友会代表幹事)
- 宮内美彦(経済同友会副代表幹事)
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危機突破戦略プラン
- 自助・共助・公助が適切に組み合わされた福祉システムを構築
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2000年 |
東京都 |
東京構想2000
- 今後は個人の自立・自助を基本としつつ、個人、企業、行政などが適切に役割分担
- 民間では対応困難な分野に行政の活動領域を限定することにより、「小さな政府」をめざしていく
- 自らの生命は自ら守る
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東京都震災対策条例(改定)
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2001年 |
国 |
小泉純一郎内閣総理大臣就任 |
2002年 |
閣議決定 |
構造改革と経済財政の中期展望
- 「民間でできることは民間で」「地方でできることは地方で」を原則に、簡素で効率的な政府を構築する
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中央防災会議 |
小泉首相挨拶
- 民間部門の参入も重要
- 官が税金を投入して直接推進できる対策は限られており、むしろいかに民間の知恵と力を活用するかが重要。
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内閣府 |
防災白書2002年度版
- 防災対策についても、このような方針(注:構造改革と経済財政の中期展望)を踏まえ、防災の各主体の役割の再確認と見直しが求められ…
- 今後の防災対策においては、住民・企業が自らを災害から守る「自助」と、地域社会が互いを支え合うう「共助」と、国、地方公共団体等行政による施策「公助」との適切な役割分担に基づき、住民、企業,地域コミュニティ・NPO及び行政それぞれが相応しい役割を果たすことが必要である。
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東日本大震災後の国・東京都の動き
国 |
2011.04- |
中央防災会議 (4回開催)
中央防災会議 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会(12回開催) |
2011.09 |
中央防災会議 東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会・最終報告 |
2011.10- |
中央防災会議 防災対策推進検討会議(4回開催)
- 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ
- 津波避難対策検討ワーキンググループ
- 首都直下地震に係わる首都中枢機能確保検討会(8回開催)
- 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会(3回開催)
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2011.12 |
防災計画修正(地震・津波対策の抜本的強化など) |
2012.03 |
中央防災会議 防災対策推進検討会議
- 中間報告
- 首都直下地震に係わる首都中枢機能確保検討会・報告
- 首都直下地震帰宅困難者等対策協議会・中間報告
- 防災対策の充実・強化に向けた当面の取組方針
- 首都直下地震対策検討ワーキンググループ
- 首都直下地震モデル検討会
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文部科学省 首都直下地震防災・減災特別プロジェクト総括成果報告書 |
東京都 |
2011.06/10 |
地震・津波に伴う水害対策技術検証委員会 (2回開催) |
2011.09-2012.03 |
東京都防災会議地震部会 (5回開催) |
2012.04 |
東京都防災会議 (被害想定決定) |
2011.09
2011.11 |
東日本大震災における東京都の対応と教訓 |
東京都防災対応指針 |
2011.12 |
2020年の東京 |
2012.01 |
木密地域不燃化10年プロジェクト |
2012.03 |
東京都帰宅困難者対策条例 |
東京都防災隣組 第1回認定 |
2012.04 |
首都直下地震等による東京の被害想定 |
●提言2
都民のいのちと財産を守ることを最優先にした東京防災計画を
被害想定は、「首都機能」優先を改め、人命と財産、都民の生活を守ることを最優先し、予想されるすべての被害を検討課題にあげ、被害の実態を明確にします。 自治体が住民のいのちと財産を守る公的責任を果たせるよう公務員削減・構造改革路線を転換し、必要な人員と組織を確保します。
○家屋倒壊・火災から人の命を守る「木造密集地対策」に全力を尽くします。
○木造住宅、マンションの新たな耐震助成制度をつくります。
○学校、病院、福祉施設などの公共施設、都営住宅の100%耐震化を区市町村と協力して進めるとともに、シビアアクシデントにも耐えうる耐震基準の設定と対応をすすめます。
○上下水道・電気・ガスなどのライフラインの総点検を東京都が行い、震度7に対応できる安全化をすすめます。
○帰宅困難者対策を抜本的に強化し、代替交通、避難施設や備蓄の確保、通信・情報対策を講じます。
○地震によって甚大な被害を及ぼす鉄道や高速道路などの都市機能を守るためにシビアアクシデントを想定し、点検と対策を国と関係機関に求めます。
○新たな大地震の津波の想定にもとづき、東京湾と島嶼の津波発生のシュミレーションを行い、シビアアクシデントの視点から総点検を行い、防潮堤や護岸、堤防の津波対応と耐震化をすすめます。
○超高層ビル・マンションの長周期地震対策を強化し、構造物、エレベーター、室内の安全、避難対策など全棟調査を行い、必要な指導援助を行います。
○液状化の危険性がある地域のボーリング調査や区市町村との協力による地盤の現状・過去の土地履歴などの情報を閲覧できるようにし、都民が地盤診断や改良工事を行う場合には必要な技術援助と助成をおこないます。
○臨海コンビナートの大災害を防止するために国に対して総点検と防災対策を求めます。
○東日本大震災では、日頃の防災教育と避難訓練で明暗がわかれました。防災教育を地域住民とともに本格的にすすめます。
現行の首都直下地震の被害想定は、「人命・生活」ではなく、首都機能確保が最優先されるものとなっています。また、倒壊家屋や死者、大規模商業施設、電車などの被害について、被害数値が低く抑えられていたり、被害の数値化がおこなわれていないことをはじめ、高速道路、新幹線、原発などのタブーが指摘されるなど、欠陥とゆがみをもったものとなっています。
現在、国や東京都は被害想定の見直しを進めていますが、単に地震の規模や位置だけの修正だけでなく、これまでの被害想定がかかえているさまざまな欠陥やゆがみを是正することが不可欠です。また、東京都は、被害想定の見直しをおこないましたがこれにとどまらず、各分野での研究成果や2012年秋に策定が予定されている国の中央防災会議の被害想定の見直しを踏まえて、被害想定をおこなうことが必要です。
木造住宅の耐震改修助成実績
自治体名 |
助成件数 |
年度 |
静岡県 |
1万922件 |
2002年度〜2010年度 |
名古屋市 |
6699件 |
2002年度〜2010年度 |
東京都 |
301件 |
2006年度〜2010年度 |
●提言3
地域の特性にあわせた住民が中心の施策ととりくみを
地震の被害想定や防災計画を生きたものにするためには、住民や地域の組織、自治体が協力して地域の総点検運動を行い、住民の目線で地域の特性に合わせた被害想定や防災計画づくりにとりくむことが不可欠です。
○東京都は地理的な違いや都市化の状況の違いによって地震や津波の被害も異なります。各地域それぞれの防災施策と防火のしくみづくりをすすめます。
○地域ごとのボトムアップのとりくみを積極的に受け入れて、都・区市町村の被害想定や地域防災計画を策定します。
○住民の目線に立った防災計画では、女性や災害弱者の視点に立った計画が必要です。避難所のトイレなど、ジェンダーと多様な人々の視点を生かした計画策定をすすめます。
軟弱地盤の上に立地する下町、臨海部の埋め立て地、丸の内、汐留、西新宿など高層ビルが林立するオフイス街や繁華街、ゼロメートル地帯と江戸川や荒川などの河川地域、広大な木造密集地域、多摩断層帯周辺、災害時要支援者が多く居住する周辺区と多摩地域、大規模団地など、その地域特性と危険度はさまざまです。
さらに、今回の大地震は、臨海部の液状化に加え、多摩ニュータウンなどの丘陵地での造成地の危険を示しました。各地域で住民が主人公になって、地域の総点検運動を行い、下からのボトムアップによる被害想定、防災計画の見直しを行うことこそが、被害想定と防災施策を生きたものとすることにつながります。
東京都が昨年十一月に発表した「防災応指針」についても、例えば阪神淡路大震災での教訓であるマンション対策については検討されていないなど、欠陥を抱えた内容となっており、住民目線での検証が不可欠です。
地域ごとの特徴
都心・業務機能集中地域 |
超高層ビル、帰宅困難者、首都機能 |
臨海・ゼロメートル地帯 |
津波、液状化、石油コンビナート、孤立 |
繁華街 |
大規模集客施設、地下街、雑居ビル、パニック、帰宅困難者 |
木造住宅密集地域 |
住宅倒壊、火災延焼、高齢者 |
周辺区・多摩地域 |
災害時要支援者、大規模集合住宅、立川断層 |
丘陵地 |
造成地、なだれ |
●提言4
発災時の震災対応を万全に、人間本位の復興を
消防力強化、災害時医療体制など地震発災時対策の確立をすすめ、都民・帰宅困難者のために、生活必需品確保、医療対策の強化、通信手段の確保、情報の発信手段など災害時の震災対応を万全にします。
○発生時に初期消火や人命救助に役立つ必要な用具をきめ細かく備蓄し、近所の人々の力が発揮できるよう、そのしくみを構築します。そのために、消防団の処遇改善、消防団詰め所の改善等を各自治体と協力してすすめます。
○石原都政で後景に追いやられていた消防力強化のた
めに、消防職員の大幅増員、消防車、救急車の整備、ハイパーレスキュ―隊増配置などを緊急にすすめます。
○福祉避難所の確保をはじめ、都民及び帰宅困難者のために、飲料水、生活必需品、簡易トイレなどを少なくとも1週間は確保できるよう、都として企業や各自治体、各方面に働きかけ備蓄します。また備蓄品を女性の視点で点検します。
○災害時の医療体制の強化を都立病院はもとより、災害拠点病院を増やし、地域病院とのネットワークで災害支援体制を確立します。都内の病院の耐震化、非常用電源確保をすすめます。
○災害時の通信手段の確保のために通信事業者と共同して、固定電話増設やシステム開発をすすめます。
○住民が主体となった町会・防災組織の運営、防災訓練の支援を強化します。また、民生委員や介護事業者等の協力を組織して、日常的な地域での見守りと災害時の支援システムを構築します。
○津波や液状化、側方流動、地盤崩壊などの視点から、現行の一時避難所、避難施設の点検、見直しをおこないます。
震災の復興は「人間復興」=住民の生活と生業の再建を基本に、住民参加、住民自治、住民合意で立案、計画をすすめます。
○復興の原則は、「人間復興」=人々の生活と生業の再建を基本に、上からの再開発やインフラ整備中心の「復興」の押し付けを行わず、住民参加、住民自治、住民合意で立案、計画されるようすすめます。
○国と都は復旧・復興のために強力な財政支援を行います。そのためにも4000億円積み立てているオリンピック基金をくらし・福祉に活用するとともに地震対策基金として活用します。
現状の東京の防災の到達点では、首都直下地震や関東大震災型の地震が発生した場合、各地で建物、とりわけ老朽木造住宅や火災が発生することは避けられません。早急な予防の視点にたった対策をすすめるとともに、地震発生時の万全の応急体制を確立することを急がなければなりません。同時に、不幸にしてまちが破壊され、生活と生産、就労の場が破壊された場合をも想定して、事前からその対策を講じることが重要です。
復旧・復興の原則は、(1)上からの計画の押し付けではなく、また、特定のシンクタンクや事業者へ委ねるのではなく、住民参加、住民自治、住民合意で立案、計画すること。(2)国や東京都が復旧・復興のための強力な財政支援を行うこと(3)災害規模によっては、身近な自治体そのものが深刻な打撃をうけていることも予想されます。国や都が強力な支援を行うことが必要です。
●提言5
防災・環境を最優先に持続可能な都市づくりへ転換を
超過密で地震に脆弱な都市づくりを一層加速させる東京への過度な一極集中を転換し、持続可能な社会、防災と環境を最優先した「防災と福祉都市東京」へ転換します。
○東京への過度な集中を転換し、異常にふくれあがった東京のダウンサイジングなど、目標を決めた都市の成長管理をすすめます。
○多国籍企業と大企業の「都市再生」を改めます。地球と環境に優しく、住み
やすく、働く場所が確保され、だれもが等しく教育を受けられ、安心して医療や介護が利用できる東京に転換します。この「福祉都市東京」の力が災害時のいのちを守りくらしを再建する力となります。
東京の防災を考えるうえで、さけて通れないものの一つが都市づくりの問題です。
石原都政は国と一体になって、「都市再生」路線を推し進め、多国籍企業のための「世界都市づくり」と東京一極集中を強力に推し進めてきました。
2000年からの11年の間に、東京23区で建設された高さ100メートルを超える超高層ビルは248棟に及び床面積は新宿区の面積に匹敵する2135万平方メートルに達しています。
こうした一極集中政策の結果、貧困と格差の拡大、地球温暖化とヒートアイランドをもたらしただけでなく、防災の面でも大量の帰宅困難者、超高層ビルの危険、ライフラインの断絶、液状化による危険など地震への脆弱性を加速度的に強めることになっています。
また「都市再生」への資源の集中的投入は、地域の防災力向上や木密地域解消、消防力強化などのとりくみをなおざりにし、東京の防災のとりくみに障害をもたらすものとなっています。開発優先から、環境と人にやさしい「防災の福祉都市東京」へ都市の成長をコントロールする都政への転換が急がれます。
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