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植栽が取り払われ丸見えの1階部分。
汚染土壌を覆土し盛り上がる植え込み跡=北区豊島5丁目団地 |
いま東京都北区の豊島5丁目団地に住んでいる5千世帯1万人の人々は、ダイオキシン類や重金属類(鉛、ヒ素など)による土壌汚染に不安な毎日を送っている。
汚染土壌検出の発端
昨年1月、豊島5丁目団地内の旧北区立豊島東小学校跡地を今後、高齢者の福祉施設として利用をすすめるにあたって、北区が同跡地の土壌調査を行ったところ、環境基準(1000pg/TEQ/g=ピコグラム)を大きく上回る1400pg/TEQ/gのダイオキシン類をはじめフッ素、ヒ素、セレンなどが検出された。
団地住民にこのことが知らされたのは3月22日に団地内の集会所で北区が開催した土壌調査結果説明会の席上であった。
この説明会に参加した多くの住民からは、「団地全体の調査が必要だ」「住民の健康に影響はないのか」「調査などにかかる経費は原因者が負担すべきだ」などの発言があった。
団地全体が異常な汚染状態
その後、北区は団地内にある区有施設、都市再生機構は団地全体についての土壌汚染調査を行ってきたが、そのなかで旧豊島東小学校の校庭の2メートル地下からは240000pg/TEQ/g、団地北側の4号棟の隣接地の3メートル地下からも230000pg/TEQ/gという高濃度のダイオキシン類が検出された。
また、北区立としま若葉小学校脇の道路の表層からは実に1700ミリグラム/キログラムという高濃度の鉛(基準値150ミリグラム/キログラム)、410ミリグラム/キログラムというヒ素(基準値150ミリグラム/キログラム)などが検出され、団地全体が異常な土壌汚染に包まれていることが明るみに出てきた。
「対策地域」指定は団地内3カ所だけ
豊島5丁目団地の異常な高濃度のダイオキシン類・重金属汚染について、北区長は12月7日、都知事に対して「北区豊島5丁目団地、豊島4丁目開発地域及び豊島5・6丁目開発地域におけるダイオキシン類土壌対策の地域指定要請」を行った。東京都知事はこれを受けて、都環境審議会に諮問、同審議会は12月27日から審議を重ね、2月13日に都知事に答申をした。
これを受けて、都は3月6日、豊島5丁目団地の18ヘクタールのうち1・3ヘクタールだけをダイオキシン類対策特別措置法にもとづく対策地域に指定した。
この対策地域に指定されたのは、同団地内の旧豊島小学校、区立豊島東保育園園庭、区立東豊島公園の3ヵ所の区有施設にとどまった。
この指定に外れた都市再生機構の敷地については「継続的なリスク管理を行っていくための方法を検討する必要がある」との東京都環境審議会の答申を受けて、今後検討されていくことになった。
東京都の説明=覆土以上の対策はない
3月7日夜、豊島5丁目団地内の集会所で、同団地自治会主催で、説明会が行われた。席上、東京都側は「汚染土壌の掘削除去の過程で汚染土壌が飛散するほうのリスクが大きいので対策は必要ない」とまで言い切っている。
一方、この説明会に参加した多くの住民からは「行政側は汚染土壌に土をかぶしたままで終わらせるのか」「覆土ということで小植栽をどんどん切り取って、団地は無残な状態になっているが、住民にこのまま今後30年も40年も我慢しろというのか」「汚染土壌が分ったことについてまったく陳謝の言葉もなく、ただ覆土というのでは納得できない」「都市再生機構に賠償請求できるのか」など、不安と怒りの声があがった。
豊島5丁目団地自治会では、1月下旬から2月10日にかけて、土壌汚染問題で住民アンケートを実施。93・7%の人が土壌汚染に不安と答え、67・3%の人たちが都市再生機構の盛り土対策に「いいとは思わない」と答え、土壌汚染の解決方法として「土盛などで封じ込め」は5・9%、「土壌の全面入れ替え」25・3%、「可能な限り入れ替え」26・9%と答えている。
住民不安を解消する根本対策と対策法の改正を
この豊島5丁目団地の土壌汚染問題で、これまでに明らかになってきたことは、5千世帯1万人が居住する大団地の土壌汚染問題について、都市再生機構も東京都も根本的な土壌汚染対策を持ち合わせていないことである。その根底には、人の健康や暮らし、そして未来を保障する環境より、“金”の考え方である。
東京都の担当者は「18ヘクタールの土を入れ替えれば1千億円の経費がかかる」といって根本対策に水をかける発言を繰り返してきている。都市再生機構は「賃貸住宅経営面」のこともとりあげ、汚染地域指定に否定的見解を述べてきている。
また、「ダイオキシン類特別措置法は基本的に農用地対策の法律で、リスク管理という考え方はこの法律には入っていない。また公用地以外の土地の汚染については、調査は義務付けられていない。土地所有者の判断によるもの。汚染地域指定についても『指定ができる』とあるだけで行政の裁量が認められている」などと東京都環境局の担当者が語っているとおり、ダイオキシン類対策特別措置法が、住民の健康や暮らしを守り、未来への環境を保障する内容になっていないことを改めていかなければならないことが明らかになってきている。【豊島5丁目団地自治会土壌汚染対策委員会副委員長・柴田桂馬】
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