新春随想
2018年1月15日
柏木新 (話芸史研究家・演芸評論家)
私は落語や講談、漫才など日本の話芸の歴史を研究していますが、その歴史の教訓から言っても、憲法九条を守り、日本を「戦争する国」にしてはならないこと、庶民の暮らしと個人の尊厳を守ることの大切さを痛切に感じています。
侵略戦争を行った戦前の日本は、アジアと日本の人々の尊い命を奪い、個人の尊厳を冒し、庶民の暮らしを破壊し、文化も滅茶苦茶にしてしまいました。
落語は八っつぁん、熊さんなど庶民が主人公で、戦争とは対極の芸能です。戦前の日本はその落語でさえも、戦争に協力させられました。
当時の落語界の自粛という形で寄席で演じていた53の落語の演目が禁止となったのです。いわゆる「禁演落語53種」です。その落語は、「戦争反対」とか「政府は間違っている」とかの内容ではありません。
遊郭に関した噺(女郎買いの落語)、妾を扱った噺、不義・好色の噺など、どちらかというと軟弱なものばかりです。こんなだらしないことを演じているのは、戦争を遂行している「時局」に適していないとなったのです。
この53種の落語を葬るための「はなし塚」を浅草の本法寺(地下鉄銀座線の田原町駅近く)に建立しました。
この塚は現存しています。
そしてそれに止まることなく、戦争を遂行の国策に即したいわゆる国策落語(当時は愛国落語、新体制落語などと呼ばれていた)をつくり、演じさせられました。
落語ですから勇ましい内容とはなりませんが、「防空演習」「出征祝(しゅっせいいわい)」「となり組」など戦争を遂行している日本国民の在り方、「夫婦貯金」「裏店銀行」など戦費確保のために国民に貯蓄・債券購入、献金を奨励する落語などです。
こうした歴史は戦争の醜さとともに、戦争は絶対にしてはならないことを私たちに教えてくれます。
「戦争する国」づくりのため憲法九条改定発議の動きを強める安倍首相、市場業者と都民を裏切る小池都知事は八っつぁん・熊さんなど庶民が主人公の落語の世界と真逆のものです。
日本も東京も庶民が主人公に切り替えようではありませんか。